認知症と遺言 ~公正証書遺言が遺言能力がなかったとして無効とされた事例

遺言は、自分の死後に自分の財産の処分の仕方を決定するものです。

遺言は、通常は、自分の死後に相続人の間で相続争いが起きることを防止する役割があります。

しかしながら、その内容によっては、むしろ死後の相続人間の紛争を助長することがあり、後で遺言の有効無効をめぐって相続人の間で泥沼の紛争になることがあります。

特に、遺言をする人が認知症など判断能力が低下していたような場合には、特に遺言の有効性が問題になることがあります。

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栃木県北地域の被害~ 福島原発被害東京訴訟2陣第4回裁判期日のご報告

私は、1つのライフワークとして、2011年3月11日に発生した福島原発事故被害の損害賠償請求事件に取り組んでいる。

福島原発被害の裁判は、全国で数多く戦われているが、私が中心的に関わっている裁判の1つ、福島原発東京訴訟の第2陣訴訟の裁判の第4回期日が、去る5月29日に東京地方裁判所で行われた。

この日は、栃木県の県北地域(那須塩原市)に住むある女性の原告(原告番号C1-1)が、法廷で意見陳述を行った。

栃木県の県北地域は、福島県に隣接する地域であり、実は、原発事故の放射線被ばくを相当程度受けている地域である。

しかしながら、実際にはまったく被害の救済がなされていない地域である。

福島原発被害東京訴訟では、福島県からの避難者の他、福島県内の放射能汚染地域に居住する原告(いわゆる滞在者)もおり、さらに、福島県以外の栃木県北地域の住民も原告になっている。

今回の裁判では、上記の原告は、福島原発事故後の栃木県北地域の被害について、克明に意見陳述を行った。

その意見陳述の内容を以下で紹介したい。

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再婚相手の連れ子と養子縁組をした場合の、離婚時に取り決めた子どもの養育費の減額請求の可否

我が国社会も、離婚は増えています。

 

離婚が増えれば、離婚経験のある人同士の結婚(再婚)も増えていくのが自然でしょう。

 

そうした場合、新たに再婚した相手に連れ子(前の配偶者との間の子ども)がいることも多く、こうした再婚相手の連れ子と養子縁組をするというケースも増えています。

 

他方で、離婚にあたって、子どもの養育費の支払いを取り決めていた場合、新たに再婚に当たって、再婚相手の連れ子と養子縁組を行った場合に、離婚の際に取り決めた養育費の変更(減額)を求めることができるかどうか、といった相談が最近多くなっています。

【離婚した配偶者が再婚した場合】

 

夫Aさんと妻Bさんの夫婦の間には、子どものCさん(16歳)がいましたが、離婚しました。

 

Cさんの親権者は妻のBさんになりました。

 

そして、Aさんは、Bさんと離婚するにあたり、Cさんの養育費の金額を取り決め、離婚後は毎月養育費をBさんに支払っていました。

 

その後、元夫のAさんは、Dさんと結婚しました。

 

Dさんも再婚で、Dさんは前の夫との間の子どものEさん(17歳)の親権者でした。

 

Aさんは、Dさんと再婚するにあたり、Dさんの連れ子であるEさんと養子縁組を行いました。

 

こうした事情のもとで、再婚し、Eさんと養子縁組をしたAさんは、Bさんに対して離婚の際に取り決めたCさんの養育費の減額を求めることができないでしょうか?

 

【離婚後の事情変更に基づく養育費の減額請求】

 

再婚相手であるDさんの連れ子であるEさんと養子縁組をしたAさんは、養子であるEさんに対して、Eさんの実父(Dさんの前夫)に優先して親としての扶養義務を負うことになります(民法887条1項、同730条)。なお、反面として、Eさんの実父がそれまでEさんに対して負っていた扶養義務は、二次的なものに後退することになります(たとえば、優先する扶養義務者であるAさんの収入のみでEさんを養育することが困難な事情などがある場合のみ、養育費の支払義務を負うなど)。

 

他方で、離婚の際に取り決める養育費は、あくまで将来の再婚や再婚相手との養子縁組などを考慮して決めるということは通常ありません。

 

ですから、離婚の際の事情と異なる事情が生じた(再婚と養子縁組)場合に、離婚の際に取り決めた養育費の変更(減額)を求めることができるかどうかということが、問題となるのです。

 

この点、実際の家庭裁判所において、こうした事例で養育費減額の申立がなされた審判例においては、やはり再婚相手との養子縁組をすることにより、その養子に対して実父に優先する扶養義務を負うこと等を根拠に、養育費の減額が認められる傾向にあります(たとえば、大阪高裁平成28年10月13日決定・家庭の法と裁判19号95頁)。

 

【実際の計算方法】

 

家庭裁判所の実務では、子どもの養育費は以下のように算定されます。

 

まず、子どもの生活費を算定します。

 

子どもの生活費は、義務者(養育費を支払う人)の基礎収入×{子の指数÷(義務者の指数+子の指数)}で算出します。

 

基礎収入というのは、その人の税込収入から公租公課、職業費(被服費、交通費、交際費)、特別経費(住居費、医療費)を控除した金額であり、いわば養育費を捻出する基礎となる収入のことです。

 

給与所得者の場合の基礎収入は、概ね総収入の0.34%~0.42%の割合で算出されます。

 

さらに、指数というのは、標準的な生活費の指数のことであり、親の標準的な生活費の指数を100とした場合、0歳から14歳までの子どもの指数は55、15歳から19歳までの子どもの指数は90として計算されます。

 

このようにして子どもの生活費を計算した上、次に具体的な義務者の養育費の分担額を計算します。

 

義務者の養育費分担額は、上記で算出した子どもの生活費×{義務者の基礎収入÷(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)}で算定されます。

 

上記の大阪高裁での審判例では、義務者であるAさんの月額基礎収入が18万6718円、権利者であるBさんの月額基礎収入が6万8143円と認定されました。

 

そして、AさんがEさんと養子縁組をする前のCさんに対する月額養育費は、次のように算定されます。

 

Cさんの生活費=18万6718円×{90÷(100+90)}=8万8445円

 

Aさんの養育費分担額=8万8445円×{18万6718円÷(18万6718円+6万8143円)}=6万4797円

 

次に、AさんがEさんと養子縁組をした後の、Cさんに対する月額養育費は、上記計算方法によれば次にとおりとなります。

 

Cさんの生活費=18万6718円×{90÷(100+90+90)}=6万0016円

 

Aさんの養育費分担額=6万0016円×{18万6718円÷(18万6718円+6万8143円)}=4万3969円

 

そこで、具体的には、Aさんとしては、Eさんと養子縁組を行うことにより、Cさんの養育費については、月額2万0828円の減額を求めることができるということになります。

 

【まとめ】

 

家族のあり方も多様化しており、離婚・再婚が珍しいことではなくなってくると、それに合わせた法制度の整備が課題になってきます。

 

確かに、Aさんの立場に立てば、再婚・養子縁組という、離婚時には想定していなかった事情の変更について考慮してほしいという要求はあるでしょう。

 

ただ、子どものCさんの立場に立ってみると、実父が再婚し、再婚相手の連れ子と養子縁組を行うことによって、自分に支払われていた養育費が減額されるというのは、時に理不尽な事情にも感じ、経済的にも厳しい立場に立たされることにもなりかねません。

 

そうした場合の母子家庭の公的な支援なども含めて、家族の多様化に対応した法制度の整備が望まれるところです。

 

 

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プロフィール

弁護士 吉田悌一郎(よしだ ていいちろう)のプロフィール

弁護士 吉田悌一郎(よしだ ていいちろう)

性別:
男性
誕生日:
1973年4月19日
血液型:
B型
お住まいの地域:
東京都
自己紹介:
東京都渋谷区で弁護士をしています(2004年~)。 事務所は渋谷共同法律事務所といます(http:/…

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福島原発被害東京訴訟第10回期日 3月25日(水)午前10時~ 東京地方裁判所103号法廷

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弁護士の商品力とマーケティングについて

弁護士の業界で、マーケティングの重要性について語られる

ようになったのは、間違いなく司法制度改革による弁護士

増員問題が出てきてからで、ここ10年くらいでしょうか。

 

今では弁護士の広告宣伝も玉石混交いろいろある状況で

すが、弁護士にとってのマーケティングはまだ歴史が浅く

、多くの弁護士はいわば手探りの状況で広告宣伝をやって

いる、そんな感じだと思います。

 

私も、マーケティングというものを少々かじって見ましたが、

とても大きな学びや気づきがありました。

 

今日は、そんなお話しをしてみたいと思います。

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国際離婚、子どもの監護権をめぐる国をまたいだ争い、ハーグ条約 

世の中のグローバル化に伴い、海外に進出する日本人は増えています。

 

同時に、国の政策もあり、日本を訪れる外国人も増えています。

 

当然の成り行きとして、日本人と外国人との間のいわゆる国際結婚が増えています。

 

国際結婚が増えれば、これまた当然の成り行きとして、国際離婚の数も増えてきます。

 

我々弁護士の感覚としても、こうした日本人と外国人との間の国際離婚に関する相談が増えていると感じます。

 

国際離婚で、特に問題となりがちなのは、子どもの監護権をめぐって繰り広げられる争いです。

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深刻化する空き家問題、法律はどうなっているのか?~空家等対策の推進に関する特別措置法

最近、少子高齢化や地方における人口減少などが原因で、誰も住んでいない空き家がそのまま放置され、その地域の景観や治安が悪化したり、火災の危険が生じたりするという、いわゆる空き家問題が社会問題となっています。

 

親の住んでいた家を相続したものの、自分が住む予定がなく、売却等も困難な空き家を抱えてしまった場合は、どうすればよいのでしょうか?

 

この問題を改善するための法律的な手当はどうなっているのでしょうか?

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いわきで有機農業を広げ、原発事故に負けずに野菜を作り続ける姿に感動! ~いわき市民訴訟

 

10日間にも及ぶ大型連休があけた先週の5月8日、福島地方裁判所いわき支部にて、いわき市民訴訟の裁判の期日が開かれた。

 

この日は、午前中の更新弁論に続き、午後は3名の原告の方々の本人尋問手続が行われた。

 

その中で、原発事故に翻弄されながら、ずっと一貫していわきで有機農業に取り組んでいる佐藤吉行さんの尋問の内容を紹介したい。

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亡くなってから3ヶ月の期間が経過してしまっても、相続放棄が認められることがあります。あきらめずに早めに相談を!

【亡父の債権者から突然の請求!?】

Aさんの父は3年前に亡くなりましたが、特にめぼしい財産は特にありませんでした。

ところが、つい最近、とある金融業者からAさんに連絡があり、実は亡くなった父親がこの金融業者に対して約1000万円の借金をしていたことが判明しました。

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亡くなった人の葬儀費用を喪主が支払った場合、この葬儀費用は最終的に誰が負担するものなのでしょうか?

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